EHMDとは

早産児や極低出生体重児では、胎内で十分な栄養を蓄積できないまま出生するため、出生後の栄養管理が成長や神経発達に大きく影響します。一方で、未熟な消化管機能などを考慮すると、母乳を基盤とした栄養管理が望ましいとされています。しかし、早産児や極低出生体重児では母乳のみでは必要な栄養量を十分に満たすことが難しい場合があるため、母乳栄養を維持しながら不足しやすい栄養素を補う目的で母乳強化が行われます。EHMDは、人乳由来の母乳強化物質を用いることで、人乳中心の栄養管理を維持しながら必要な栄養を補完する栄養戦略です。
出典:内山温 編著, NICU 100のコツ, pp.52-55, 2024.
水野克己, よくわかる母乳育児 改訂第3版. p.195, 2023.
水野克己ら, 日本新生児成育医学会雑誌. 2026;38(1): 93-107, 2026.
一般的な知見を示したものであり、特定製品に関連付けるものではありません。
EHMD(exclusive human milk diet)という栄養戦略
早産・極低出生体重児の栄養管理では、母乳が望ましい栄養とされています。EHMDとは、母乳を第一選択とし、母乳が不足する場合にはドナーミルクを使用し、さらに栄養強化も人乳由来製剤で行うことで、人乳由来栄養のみで構成される栄養管理を指します。米国小児科学会(American Academy of Pediatrics:AAP)は、特に早産・極低出生体重児に対して、自母乳のない場合はドナーミルクの使用を推奨しており、壊死性腸炎(NEC)リスク低減の観点からも、ヒト母乳由来母乳強化剤(EHMD)を含む栄養戦略の重要性を示しています。
出典:AAP Committee on Nutrition. "Nutritional Needs of the Preterm Infant." In: Pediatric Nutrition Handbook. 7th ed. Elk Grove Village, IL: American Academy of Pediatrics; 2014.
さらに、欧州小児消化器栄養肝臓学会(European Society for Paediatric Gastroenterology, Hepatology and Nutrition:ESPGHAN)も、早産児の栄養管理では母乳を第一選択とし、可能な限りヒト母乳由来母乳強化剤を使用することが望ましいとしています。
出典:ESPGHAN Committee on Nutrition. "Nutrition of the preterm infant: scientific basis and practical guidelines." J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2022.
日本においても、日本小児医療保健協議会栄養委員会(2019年提言)が、将来的にEHMDを提供できる体制整備の必要性を示しています。
EHMDのメリット
- 早産・極低出生体重児の短期予後・長期予後の改善が報告されている1, 2)。
-
経腸栄養の早期確立への寄与が報告されている1, 3) 。
静脈栄養期間の短縮により、合併症(慢性肺疾患(気管支肺異形成)、未熟児網膜症)の予防1)
入院期間の短縮1, 3) - ウシ由来の母乳強化物質の問題点(経腸栄養不耐、牛乳アレルギー、脂肪酸カルシウム 結石の形成、消化管手術後の糞石の形成回避)の予防が示唆されている4, 5) 。
- 体重増加が認められている1, 6) 。
- 医療費の削減につながることが示唆されている(入院期間の短縮など)7) 。
など
1) Hair AB, et al. Breastfeed Med 2016; 11: 70-74.
2) Hair AB, et al. J Perinatol 2022; 42: 1485-1488.
3) Swanson JR, et al. BMC Pediatr 2023; 23: 237.
4) Sandhu A, et al. Breastfeed Med 2017; 12: 272-277.
5) Stanger JD, et al. J Pediatr Surg 2014; 49: 1272-1275.
6) Huston RK, et al. Nutr Clin Pract 2018; 33: 671-678.
7) Igarashi A, et al. J Med Econ 2025; 28: 1899-1909.
一般的な知見を示したものであり、特定製品に関連付けるものではありません。
“Survive”から“Thrive”へ~世界におけるEHMDの変遷 ~
EHMDはエビデンスを積み重ねながら、現在に至るまでに3つの時代(Era)を経てきました。
- Era 1(Survive):EHMDの基礎概念が確立された時代であり、EHMDはNECの発症抑制に寄与することを初めて明確に示されました。
- Era 2(Improve):EHMDの導入が進み、NECだけでなく合併症の抑制に寄与すると評価されるようになりました。
- Era 3(Thrive):長期転帰や多施設・国際的エビデンスが蓄積され、日本国内で実施された第Ⅲ相試験は世界的に注目を集めており、EHMDは予後の観点からも、臨床で標準的選択肢として成熟し、児の将来を見据える時代としてたゆまぬ進化を遂げています。
一般的な知見を示したものであり、特定製品に関連付けるものではありません。
NICU入院児の母乳栄養戦略
NICUに入院する新生児には、極低出生体重児を含む早産児だけでなく、先天性心疾患や消化器疾患を有する正期産児も含まれます。新生児期の栄養管理は、その後の成長や神経発達など生涯にわたる健康に影響する重要な要素とされています。
NICUにおける経腸栄養では、自母乳を最優先とすることが基本とされています。母乳が十分に得られない場合には、母乳バンクから提供されるドナーミルクを補足することが推奨されています。
特に早産児や極低出生体重児では、妊娠後期に胎内で蓄積されるはずだった栄養が不足しているため、生後早期からの適切な栄養管理が重要です。一般的には生後24時間以内に経腸栄養を開始し、10~30mL/kg/日程度で段階的に増量することが推奨されています。
また、母乳のみでは早産児の成長に必要な栄養素(特にタンパク質やエネルギー)が不足することがあるため、一定量の経腸栄養に到達した段階で母乳強化を行うことが一般的です。母乳またはドナーミルクを基盤とし、栄養強化も人乳由来製剤で行うEHMDという栄養戦略では、NECなどの合併症発症リスク低減や、栄養管理の質向上の観点から臨床的意義が報告されています。
NICUでは以下のような児においても母乳中心の栄養管理が重要とされています。
- 早産・極低出生体重児
- 先天性心疾患を有する児消化器疾患を有する児
- 体重増加不良を認める児
これらの児では、母乳またはドナーミルクを基盤とした栄養管理に加え、人乳由来母乳強化剤を用いたEHMDの活用が選択肢の一つとして検討されます。このように、NICUにおける栄養管理では、母乳を中心とした栄養戦略を基盤に、児の状態や栄養必要量に応じて母乳強化を行うことが重要とされています。
参考文献:水野克己 他,「 エビデンスに基づくNICU入院児の母乳栄養戦略」, 日本新生児成育医学会雑誌, 2026;38(1): 93-107
