母乳とドナーミルクについて

母乳とドナーミルクについて

低出生体重児・早産児の栄養管理では、母乳を基盤とした栄養戦略が重要なアプローチとして位置づけられています。世界保健機関(WHO)は生後6か月間の完全母乳育児を推奨しており、低出生体重児の栄養管理においても母乳による栄養補給が推奨されています1)。自母乳が十分に得られない場合には、ドナーミルクが代替手段として用いられ、人乳を中心とした栄養管理の継続が図られます。
さらに近年では、人乳を基盤とした栄養管理の一環として、母乳と人乳由来母乳強化剤を組み合わせたEHMD(exclusive human milk diet)への関心も高まっています2,3)。臨床研究では、極低出生体重児における合併症の発生率低下や発育・神経発達予後の改善が報告されており、人乳を中心とした栄養管理は世界的にも支持されています。

1) Global Strategy for Infant and Young Child Feeding.
  https://iris.who.int/server/api/core/bitstreams/9fb22395-3340-42f4-b925-87749236a25a/content(最終アクセス日:2026年3月31日)
2) Hair AB, et al. Breastfeed Med 2016; 11: 70-74.
3) Hair AB, et al. J Perinatol 2022; 42: 1485-1488.

EHMDに関する記載は一般的学術情報であり、プリミーフォート®経腸用液の有効性・有用性を直接示すものではありません。

日本における低出生体重児医療の現状

近年、日本では合計特殊出生率の低下が続き、2024年の出生数は約68万6千人と少子化が進行しています。一方で、極低出生体重児や超低出生体重児の出生割合は大きく変化しておらず、周産期医療および新生児医療が担う役割は依然として重要です。日本の新生児医療は世界的にみても高い救命率を達成しており、在胎22〜24週の早産児における生存率も年々向上しています。国際的に比較しても、日本は早期に出生した児の生存率が高いことが報告されています。

本邦の出生数と合計特殊出生率
極低出生体重児と超低出生体重児の出生数、および全出生数に対する割合の推移
「日本国内の新生児、乳児死亡率の減少率」と「乳児死亡率の諸外国との比較及び推移」

一方で、生存率の向上に伴い、未熟児網膜症(ROP)や気管支肺異形成症(BPD)などの合併症や、長期的な神経発達への影響が重要な課題として認識されています1)

低出生体重児では、未熟な臓器機能や出生後の環境変化により、さまざまな合併症が生じやすいことが知られています。例えば、壊死性腸炎(NEC)は腸管の炎症や壊死を伴う重篤な疾患であり2)、早産児において特に注意が必要な消化管合併症の一つです。未熟児網膜症は網膜血管の異常な発達により視機能障害を引き起こす可能性があり3)、慢性肺疾患(CLD/気管支肺異形成症)は未熟な肺に対する人工呼吸や酸素療法などの影響により慢性的な呼吸障害を生じる疾患です4)。さらに、動脈管開存症(PDA)は胎児循環に存在する動脈管が出生後も閉鎖せずに残存することで循環動態に影響を及ぼすことがあります5)。新生児敗血症は未熟な免疫機能に関連して発症する重篤な感染症であり、早産児では特に注意が必要です。こうした合併症の発症には栄養管理も関与することが指摘されており、特に人乳を中心とした栄養はNECをはじめとする合併症発症リスク低減に関連する可能性が示されています6,7,8)

現在の新生児医療では、単に生命を救うことにとどまらず、将来の成長や発達を見据えた医療が重要視されています。

こうした背景のもと、児の成長や神経発達の基盤となる栄養管理は、NICU医療における重要なテーマとなっています8)

1) Isayama T, et al. JAMA Pediatr. 2025;179(11): 1183-1193. doi:10.1001/jamapediatrics.2025.2958
2) 中村友彦 監, 超低出生体重児の管理マニュアル 改訂第2版. p.152, 2024.
3) 中村友彦 監, 超低出生体重児の管理マニュアル 改訂第2版. p.245, 2024.
4) 中村友彦 監, 超低出生体重児の管理マニュアル 改訂第2版. p.85, 2024.
5) 中村友彦 監, 超低出生体重児の管理マニュアル 改訂第2版. p.110, 2024.
6) 内山温 編著, NICU 100のコツ, pp.52-55, 2024.
7) 水野克己, よくわかる母乳育児 改訂第3版. pp.190-196, 2023.
8) 水野克己ら, 日本新生児成育医学会雑誌. 2026;38(1): 93-107, 2026.

EHMDに関する記載は一般的学術情報であり、プリミーフォート®経腸用液の有効性・有用性を直接示すものではありません。

NICUにおける栄養管理

NICUにおける栄養管理

NICUにおける栄養管理は、生命維持だけでなく、臓器の成熟、合併症発症リスク低減、さらには長期的な神経発達等の予後改善を見据えた重要な治療戦略です。胎児は胎盤および臍帯を介して母体から持続的に栄養供給を受けながら成長します。しかし早産児ではこの環境が出生と同時に失われるため、出生後は医療的介入によって栄養を補う必要があります。そのためNICUでは、児の状態に応じて以下のような方法で栄養管理が行われます。

出典:内山温 編著, NICU 100のコツ. 2024.
   水野克己, よくわかる母乳育児 改訂第3版. 2023

EHMDに関する記載は一般的学術情報であり、プリミーフォート®経腸用液の有効性・有用性を直接示すものではありません。

経静脈栄養

消化管を介さず静脈内から直接栄養素を投与する方法です。経腸栄養が十分に行えない時期には重要な栄養供給手段となり、末梢静脈挿入式中心静脈カテーテルや臍静脈カテーテルなどを用いて投与されます。通常は出生当日からアミノ酸を含む栄養投与が行われ、血液検査などを用いて栄養状態をモニタリングしながら調整されます。

出典:中村友彦 監, 超低出生体重児の管理マニュアル 改訂第2版. p.178, 2024.

経腸栄養

胃管や経口によって消化管を通して栄養を投与する方法であり、消化管の成熟や機能維持の観点から重要とされています。早産児では、生後24時間以内に開始する「超早期授乳」が推奨されており、遅くとも生後72時間以内に経腸栄養を開始することが望ましいとされています。出生後できるだけ早期に経腸栄養を開始することは、腸管の発達促進や感染防御機能の維持にも寄与すると考えられています。NICUではまず自母乳の使用が推奨されますが、母乳が十分に得られない場合には、母乳バンクを通じて提供されるドナーミルクが使用されることがあります。一方、早産児は妊娠後期に母体から得られる予定であった栄養素の貯蔵が不十分であり、発育のために必要な栄養摂取量が高いことが知られています。そのため、母乳やドナーミルクに母乳強化剤を添加し、栄養素を補った形で投与する母乳強化が行われてきました。これまで日本で使用可能であった母乳強化剤は、牛乳由来の製品のみでした。
近年では母乳・ドナーミルク・ヒト乳由来母乳強化剤のみで構成される完全人乳栄養(EHMD)という栄養戦略が注目されています。

出典:中村友彦 監, 超低出生体重児の管理マニュアル 改訂第2版. p.181, 2024.
   水野克己ら, 日本新生児成育医学会雑誌. 2026;38(1): 93-107, 2026.

ファミリーセンタードケア(FCC)

また近年、新生児医療ではファミリーセンタードケア(FCC)の重要性も広く認識されています。FCCは、医療者だけでなく家族もケアチームの一員として児のケアに参加し、目標を共有しながら最善の医療を提供するという考え方です。母乳育児の支援や母子接触の促進などもFCCの重要な要素とされており、NICUにおける栄養管理やケアの質の向上にも関係する概念として注目されています。

出典:中村友彦 監, 超低出生体重児の管理マニュアル 改訂第2版. p.25, 2024.

母乳栄養の重要性

母乳は新生児にとって最適な栄養源であり、栄養摂取だけでなく免疫防御や発育促進など多面的な役割を担っています。世界保健機関(WHO)は、生後6か月間の完全母乳栄養を推奨しており、母乳のみでは十分な体重増加が得られない低出生体重児の栄養管理においても人乳を基盤とした栄養戦略の重要性が示されています1)。母乳には免疫調節因子、成長因子、抗菌物質など多くの生理活性物質が含まれており、早産児では壊死性腸炎(NEC)、重症感染症、未熟児網膜症(ROP)、慢性肺疾患(CLD/気管支肺異形成症:BPD)などの合併症発症リスクの低減と関連することが報告されています2,3,4)。また、DHAやアラキドン酸などの長鎖多価不飽和脂肪酸を含み5)、頭囲の増加や脳重量の増加に関与すると考えられています6)。母乳栄養は、児に対する利点だけでなく母親にもさまざまなメリットをもたらすことが知られています。

  • 児へのメリット7)
  • 死亡率の低下、様々な疾患予防効果、生活習慣病リスクの軽減、免疫反応の増強、神経発達の成熟度への影響、などが報告されており、長期的な認知能力の向上との関連も示唆されています。

  • 母親へのメリット8)
  • 子宮収縮の促進による産後回復への寄与や、母子のアタッチメントへの関与が知られています。また長期的には、乳がんや卵巣がんなどの発症リスク低減との関連が示されていることも報告されています。

このように母乳栄養は、児の発育や発達を支えるだけでなく、母親にとっても様々な利点をもたらす栄養戦略として位置づけられています。

1) Global Strategy for Infant and Young Child Feeding.
  https://iris.who.int/server/api/core/bitstreams/9fb22395-3340-42f4-b925-87749236a25a/content(最終アクセス:2026年3月31日)
2) 内山温 編著, NICU 100のコツ. pp.52-54, 2024.
3) 水野克己, よくわかる母乳育児 改訂第3版. pp.189-196, 2023.
4) 水野克己ら, 日本新生児成育医学会雑誌. 2026;38(1): 93-107, 2026.
5) 水野克己, よくわかる母乳育児 改訂第3版. pp.46-47, 2023.
6) Xiang M, et al. Acta Paediatr. 2000;89: 142-147.
7) 水野克己, よくわかる母乳育児 改訂第3版. pp.7-11, 2023.
8) 水野克己, よくわかる母乳育児 改訂第3版. pp.2-6, 2023.

母乳の構成成分と生理的役割

母乳は水分を主体としながら、脂質、炭水化物、タンパク質、ビタミン、ミネラルなどの栄養素に加え、多様な生理活性物質を含む複雑な生体液です。炭水化物の主成分である乳糖は脳のエネルギー源となるほか、カルシウム吸収の促進や腸内細菌叢の形成に関与します。また、ヒトミルクオリゴ糖(HMO)はビフィズス菌の増殖を促し、病原体の粘膜への付着を阻害することで感染防御に寄与します。タンパク質にはラクトフェリン、分泌型IgA、リゾチームなどの免疫関連物質が含まれ、抗菌作用や免疫調節作用を担います。さらに脂質にはDHAやアラキドン酸などの長鎖多価不飽和脂肪酸が含まれ、脳や視覚機能の発達に重要な役割を果たします。

特に早産児の母乳(早産母乳)は、免疫細胞、免疫グロブリン、抗炎症物質などの免疫関連因子に加え、ビタミンAやビタミンEなどの抗酸化物質も豊富に含まれており、早産児が本来妊娠後期に子宮内で獲得するはずであった多くの要素を、母乳を介して補うことができると考えられています。また、早産母乳には早産児の成長や発達を支える成分が多く含まれていることが報告されています。ビタミンAやビタミンEなどの抗酸化物質は、慢性肺疾患(CLD/気管支肺異形成症:BPD)や未熟児網膜症(ROP)の発症リスクの軽減に関与する可能性も示唆されています。さらに、早産母乳の脂肪球は正期産母乳と比較して小さく、消化吸収しやすい特徴を有しており、脂肪球膜成分も単位容積あたりで多く含まれています。なお、母乳分泌量が十分でない場合でも、母乳の成分は児に適したものとなると考えられており、必ずしも栄養学的に劣るものではありません。

このように母乳は、栄養補給だけでなく、免疫、防御、発達など多様な生理機能を支える栄養としての特徴を有しています。

出典:水野克己, よくわかる母乳育児 改訂第3版. pp.46-59, 2024.
   内山温 編著, NICU 100のコツ, pp.52-54, 2024.
   水野克己, よくわかる母乳育児 改訂第3版. pp.190-196, 2023.
   水野克己ら, 日本新生児成育医学会雑誌. 2026;38(1): 93-107, 2026.

ドナーミルク

ドナーミルク

NICUに入院する早産児では、母体の体調や分娩状況などにより自母乳が十分に得られない場合があります。その際に利用されるのが、母乳バンクで提供されるドナーミルクです。ドナーミルクは、健康なドナーから提供された母乳を適切に検査・処理したものであり、自母乳が不足する場合の代替として利用されます。

母乳バンクは、自身の児に必要な量を超えた母乳を寄付として受け取り、安全かつ衛生的に収集・検査・低温殺菌処理を行ったうえで、医療的に必要とされる新生児、特に早産児や極低出生体重児にドナーミルクとして供給する医療支援機関です。ドナーミルクの安全性を確保するためにドナーの健康状態の確認や細菌検査、62.5℃で30分間の低温殺菌(Holder法)などの処理を行い、冷凍管理のもとで各NICUへ提供しています。また、処理時にはバッチ番号を付与することで、万が一の際にも追跡可能な体制が整えられています。

多くのガイドラインでは、極低出生体重児において自母乳が確保できない場合、人工乳よりもドナーミルクの使用を優先することが推奨されています。これは、人乳を基盤とした栄養管理が壊死性腸炎(NEC)などの重篤な合併症発症のリスク低減と関連することが報告されているためです。

日本では年間約5,000人の早産児・極低出生体重児がドナーミルクを必要とすると推定されており、母乳バンクはこれらの児に対する安定供給を目指して活動しています。ドナー登録者数やドナーミルク利用施設は年々増加しているものの、地域によっては利用体制が整っていない場合もあり、今後さらなる普及と供給体制の整備が求められています。また、日本ではドナーミルクを利用した児のレジストリ制度が運用されており、ドナーミルクの安全性や有効性についてのデータ蓄積も進められています。

一般財団法人日本財団母乳バンク|公式サイト